ある日、公式サイトで「臨時更新」のお知らせを見つけると、つい構えてしまう方も多いかもしれません。
競走馬の世界では、臨時更新が故障の知らせであることも少なくないからです。
とある馬の例では、レース後に両ヒザに腫れと熱感が見られ、検査の結果「剥離骨折」が判明。
トレセン内の診療所で骨片を除去する手術を受け、全治6か月以上との診断でした。
突然の「骨折」「手術」という言葉に、つい動揺してしまうかもしれませんが、ここは一度落ち着いて、この「剥離骨折」というケガについて少し掘り下げてみましょう。
■ 剥離骨折とは?
まず「骨折」と一口に言っても、さまざまな種類があります。馬事公苑の資料『競走馬の主な骨折』によれば、骨折の種類と重症度は以下のように分類されています。
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軽度な骨折:ヒビ、剥離骨折
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重度な骨折:粉砕骨折、開放骨折 など
「剥離骨折」は、骨の一部(小さな骨片)が剥がれてしまう状態を指します。
完全にポキッと折れているわけではなく、つながっている骨から一部が欠けてしまったようなイメージです。
このタイプの骨折は、レース後の検査で初めて発覚することも多いです。
というのも、小さな骨片が剥がれただけなら、走行中にもある程度動けてしまうためです。
痛みを我慢して走り切る姿には、頭が下がる思いですね。


■ 治療法と復帰までの流れ
剥離骨折の治療法は、基本的に除去手術になります。
剥がれた骨片を摘出し、関節の動きや炎症を抑える処置が施されます。
復帰までの期間は個体差がありますが、軽度のケースでは約3か月ほどで復帰できることもあります。
実際に、2015年の日本ダービー(東京優駿)で4着に入ったリアルスティールは、そのレース中に軽度の剥離骨折を発症。
休養を経て同年9月の神戸新聞杯に出走し2着と好走しました。
さらにその後は、ドバイターフ(G1)を制するなど、剥離骨折から見事に復活し、海外G1馬となった例でもあります。
このように、剥離骨折は適切な治療とケアにより、競走能力を落とすことなく第一線に復帰できる可能性が十分ある故障といえるでしょう。
■ 骨折しやすい部位とは?
競走馬の骨折は、前脚に起こることが多いとされています。
後ろ脚で生まれた推進力を、前脚で受け止める際に大きな負荷がかかるからです。
今回の例でも「両ヒザ」に損傷が見つかったとされていましたが、馬の場合、前脚の関節も「ヒザ」と表現されるため、一般的には前脚の怪我とみなされることが多いです。
■ 剥離骨折は「不幸中の幸い」?
もちろん骨折は悲しいことに違いありませんが、競走馬にとっては避けて通れないリスクでもあります。
体重400〜500kgの巨体が、繊細な脚で60km/h以上のスピードで走るわけですから、足元の負担は想像を超えます。
そんな中で、剥離骨折は比較的軽度な部類であり、早期発見と適切な治療によって復帰できるケースも多いというのは、ひとつの救いとも言えるでしょう。
■ 最後に
ケガは残念ですが、それが「力負けではない」と分かることで、逆に希望が持てることもあります。
時間をかけて治療し、また元気な姿で走る姿を見られる日を、静かに信じて待ちたいものです。
競走馬の剥離骨折は決して終わりではなく、再スタートへの一歩です。
関係者の尽力と馬自身の生命力を信じましょう。
※この記事は2025年6月19日に加筆・修正を行いました。